コラム

ビッグモーター事件から見える保険金不正請求とその解決策

2023/07/31コラム

1.ビッグモーター事件

中古車販売大手・ビッグモーターが、事故車修理における保険金を不正に水増請求していた問題が発覚し、損害保険ジャパンとの癒着の疑惑が浮上しました。

ビッグモーターは最大で33あった工場に対して、「アット」と呼ぶ営業ノルマの達成を強く求めていました。 その平均値を上げるようにノルマを課し、平均値が低い工場の責任者を本社役員などが会議の場で厳しく詰めたり、見せしめのように降格処分したりといったことが常態化していたといいいます。

2.不透明な保険金支払い基準

この事件から見えるのは、保険金請求の問題です。ビッグモーター事件の背景には、保険会社との癒着や、不透明な保険金請求基準が存在していると言われています。

これにより、保険金の不正請求が横行し、結果的に保険料の上昇や保険契約者の負担を招いています。

損害保険ジャパンは、2011年以降もあわせて37人を向かわせるなど長年、ビッグモーターと親密な関係にありました。 損害保険ジャパンを含めた損保大手3社(東京海上日動火災、三井住友海上火災)は、不正請求問題が発覚した昨年の夏に事故車両の修理をビッグモーターに依頼することを取りやめましたが、「損害保険ジャパン」だけが一時的にビジネスを再開していたということです。

会社は、社内調査をふまえ、出向者は不正を知らなかったと説明していましたが、保険金の不正請求を認識できなかった事を重く見て外部の弁護士による調査委員会を設置し、透明性を確保した調査を実施すると発表しました。

この問題は、ビッグモーターだけの問題ではなく、損害保険業界全体の問題です。

今回の事件は業界内の氷山の一角であり、全保険会社に対して厳しい追及と調査を実施して、明らかにして欲しいものです。

3. 損保ジャパン、金融庁に虚偽報告か

37名もの社員を出向させていた損害保険ジャパンが、「工場長による不正の指示があった」との情報を把握していたにもかかわらず、金融庁には「不正の指示はなかった」と報告していたことが判明した。金融庁は、損保ジャパンが虚偽報告した疑いもあるとみて調査する。

複数の関係者によると、2022年1月ごろ、ビッグモーター内で「工場長から不正の指示があった」との内部告発があった。これを受け、損保ジャパンの出向社員らがビッグモーター内で調査を実施した。

だが、調査を基にビッグモーターがまとめた報告書では、告発した従業員の発言が署名つきで「工場長の指示はなかった」との記載になっていたという。(毎日新聞)

4. ありえない特別な保険金支払い体制

驚いたのは、ビッグモーターから請求があった場合、特に査定することもなくそのまま支払っていたという点。通常は実際に損害の状況を確認し、見積額の適正性を算出する過程があるが、そのような過程はなく、高い見積もりと知りながら支払いを進めていたということになります。

個人の契約者の対応とはほど遠い、真逆の「高待遇」の支払いが行われていました。

5. 解決策:保険業界の公正性を守る、独立したチェック機関の必要性

ビッグモーターの不正請求事件は、損害保険業界における保険金請求のプロセスと支払い基準の透明性が不足していることを浮き彫りにしました。

特に、国や政治、保険会社、大企業などの圧力から独立し、一切の配慮がないことが明確にわかるように第三者の存在が求められる必要があります。

保険金の請求と支払いのプロセスは、専門的な知識を必要とする複雑なものです。

そのため、消費者が自身の権利を正しく、正しく定めることが難しい場合があります。

この問題に対処するためには、保険会社に一切の配慮をせず、損害保険に精通した第三者機関の存在が必要です。保険金の支払いを監視し、不正行為を防ぐためのチェック機関が必要です。

具体的には、民間の調査会社や消費者保護団体などこの役割を果たすことができます。これらの機関は、保険金の請求と支払いの基準を明確にし、消費者に対して明確に説明することで、消費者の理解と保護を支援します。

しかし、これらの第三者機関が真に独立して機能するためには、国や政治、保険会社、大企業などの圧力から完全に自由であることが必要です。そうして初めて公正かつ冷静な評価を行うことが可能となります。

このような独立したチェック機構の存在は、保険業界の公平性と透明性を保証するために必要です。

損害保険各社は問題に対処し、具体的な行動をとることが求められています。

ビッグモーターの事件は、この問題に対する緊急性を強調しています。

保険業界は、この事件を教訓に、保険金請求の支払い基準の透明化と第三者チェック機関の導入を進めることで、消費者の信頼を回復し、持続可能な成長を達成することが可能ではないでしょうか。

6.独立したチェック機構の条件

このチェック機関が果たすべき役割としては、保険金請求の適正性の確認、保険会社との癒着の確認、保険金請求基準の正当性の確認などがあります。

チェック機関は以下の条件を満たす必要があると考えます。

①独立性

チェック機関は、保険会社や大企業、政治からの圧力に屈しない独立性を持つ必要がある。これにより、保険金請求の適正性を公正に評価することが可能となる。

②専門性

チェック機関は、損害保険に関する専門知識を持つ必要がある。これにより、複雑な保険金請求の問題を正しく行うことが可能となる。

③透明性

チェック機関は、その活動内容を公開し、透明性を確保する必要がある。これにより、保険契約者や一般の人々がチェック機関の活動を見据え、信頼を持つことが可能となる。

7. 出向者の問題:金融庁にも虚偽報告

ビッグモーター事件において、損害保険ジャパンをはじめとする損保大手3社からビッグモーターに出向いていた従業員が存在していた事も大きな問題点です。本来は監視役としての役割を果たすべきでしたが、実際には不正が行われていました。

これは、出向者が保険会社とビッグモーターとの間で板挟みになり、ビッグモーターの不当を見逃す結果を招いた可能性があります。

出向者は、自身の出身企業である保険会社の利益を守る一方、ビッグモーターの業績を上げるために不正を黙認するという二重の役割に追われていた可能性もあるのではないでしょうか。

このような出向者の存在は、保険業界における不透明性や癒着を象徴するものであり、この問題を解決するためには、出向者の役割と責任を明確にするとともに、出向者が保険会社と出向先企業との間で板挟みにならないような制度を整備する必要があります。

また、出向者が不正を黙認するには、保険会社の組織文化や経営方針が影響している可能性もあります。

8. まとめ

ビッグモーター事件は、損害保険業界の深刻な問題を浮き彫りにしました。保険金請求の基準の透明化と、保険会社に一切の配慮がない独立したチェック機関の設置が急務です。

また、出向者の役割や責任を明確にし、出向者が保険会社と出向先との間で板挟みにならず、また何よりも保険契約者の信頼を回復し、保険業界の健全な風土改革をすることが期待されます。

今回の事件は氷山の一角です。個人の契約者へは非常に横柄な対応をすることが常態化している損保各社は利益の大きい契約者には違法な便宜を図っている可能性が高いと疑われても仕方がないかもしれません。

過去最高益を上げながら、保険金不払いや保険料の値上げを続ける保険会社、今回の事件はビッグモーターの責任だけではなく、保険会社側の責任にもしっかり立ち入ってもらいたいと考えます。

 

土井 隆